住宅の沈下被害や振動被害の解決を支援します

Backup for Housing Subsidence damage and Vibration damage.

住宅の振動被害

交通振動や近隣工場などからの環境振動や、建設工事の振動などにより建物が揺れて損傷が生じる場合があります。振動は地盤を伝搬するため、基本的に発生源に近ければ振動は大きく、離れれば小さくなりますが、建物の中で振動は増幅する場合があり、ある程度離れていても大きな振動を感じる場合があります。

一方で、現在では住宅の耐震化も進み、建物が揺れても必ずしも被害が生じるわけではなく、建物の振動に対する強さによって大きく異なります。最近は、この振動被害の苦情が多いのですが、実際には本当に振動で被害が生じていることは少なく、見誤ると問題解決を困難にする場合も少なくありません。どんな損傷が振動被害なのか?どんな時に被害が生じるのでか?をご理解いただくことで問題解決に近づきます。

ここでは「振動障害(振動被害)」に関する基礎的な知識と振動障害が生じるケースなどについてご紹介します。

振動被害の発生メカニズム

建物の振動被害は、(1)振動の地盤伝搬(距離減衰)→(2)到達振動→(3)建物への入力→(4)内部増幅→(5)建物の微小変形→(6)損傷発生 をたどります。

このように、発生源の振動が地盤を伝搬して建物を揺らすことで、①建物躯体に微小変形が生じ、この変形に追随出来ない仕上げ部材にひび割れ(亀裂)などの損傷が生じる。また、建物躯体の変形とは別に、②老朽化などにより剥離が生じた仕上げ部材などが振動(慣性力)により剥落するような損傷発生があります。

これらの損傷発生は振動の大きさと共に、前者は建物の変形のし易さ(剛性)と仕上げ部材の追随性、後者は老朽程度や施工の良否など“その部位の従前の程度”が問題となりますが、剥離したモルタル外壁などかなり老朽化した建物の場合です。

   
      

振動被害のポイント

振動被害の発生は上記のような発生メカニズムをたどりますので、まずは発生源の振動振動の大きさと建物に到達した振動の大きさが問題になります。振動は地盤を伝搬するので、伝搬中にエネルギーロス(距離減衰)が生じるため、到達する振動は振動源から離れれば小さくなります。

到達した地盤振動は基礎を介して建物に入力し、その際、中大規模の建物では入力損失が生じますが住宅規模ではほとんどなく、むしろ建物内で増幅し、これが「応答振動」となります。

この応答振動の大きさで建物に変形が生じこれに追随できない仕上げ部材に損傷が生じます。このため、同じ距離にある建物でも「建物内の増幅」と「耐震性能(建物の剛性)」が異なれば損傷発生の有無が変るのでこの2つが重要なポイントになります。

建物内の増幅

上記の通り到達した振動が建物内で増幅する程度が重要です。

この図は、横軸が建物の固有周期(≒剛性)、縦軸は建物の増幅程度(倍率)を示したものです。木造住宅の固有周期は4~8Hz程度が標準ですが、増幅倍率はかなりバラツキがあります。

2倍程度増幅する建物が多いですが、中には4倍を超える建物もあります。レベルに換算すると2倍は+6㏈、4倍は+12㏈となります。

平均+偏差=2.5倍(+8㏈)ですので、標準的にはこの程度の増幅を想定します。

例えば、地盤面が70㏈であれば増幅した応答値は78㏈になるということです。

 

※藤本圭介・伊奈潔「戸建住宅の振動特性の推定(その1増幅量)」日本建築学会大会学術講演梗概集2022.9

 

建物の振動に対する強さ(剛性)

建築基準法では中地震時(震度5相当=応答200gal(200cm/sec2))に建物の変形(剛性)を1/120(≒8.3/1000)以下となることを規定していますので、現在ある建物は少なくともこの剛性(強さ)を有していうことになります。

これにより、環境振動や工事振動による建物内の応答値がわかれば、どの程度変形が生じるのかわかります。ただし、建物の剛性は振動の大きさに対して非線形(大きな振動に対して剛性は低下する)なので、これら振動時の剛性は基準法で定める剛性より大きく1.9倍程度です。

例えば、応答振動の大きさが20galとすると、20/200×8.3/1000÷1.9=0.43/1000 となります。以下の層間変形角と損傷限界の関係で示す通り、何らかの損傷の下限値は0.5/1000ですので、この場合には損傷は生じないことになります。

振動の大きさと地震の大きさ

良く振動の大きさを「地震の大きさ」で例えられますが、エネルギーの大きさが桁違いであることと、扱う単位が異なる(非線形)ため、簡単に比較ができません。

この図は、横軸が環境振動や工事振動でよく使う「振動レベル(㏈)」、縦軸が加速度(gal=cm/sec2)です。このように地震の震度階はかなり大雑把で大きな値であることがわかります。

ちなみに、交通振動の要請限度は65㏈、振動規制法の特定建設作業の規制値は75㏈です。

時々、工事振動の苦情で「震度5くらいの振動だった」などと聞くことがありますが、震度5の最小値は80gal(振動レベルにして95㏈)、振動規制法の規制値75㏈との差20㏈は10倍に相当しますので、ちょっとあり得ません。

 

振動レベルと振動加速度レベル

環境振動や建設工事の振動の測定の単位は「振動レベル(㏈)」を用います。ただこの振動レベル(VL)は、体感補正(周波数重み付け補正)した感覚量です。

これは、振動規制法が「人の生活環境の保全」を目的としているために、人の感覚(反応)に補正しているためです。一方、ここで扱う建物の振動被害は物理的な問題ですので、感覚補正する前の物理量である振動加速度レベル(㏈)または加速度(gal=cm/sec2)を扱う必要があります。振動加速度レベル(VAL)は加速度値を対数表示したものです。

表示された振動レベル(VL)から振動加速度レベル(VAL)は不可逆なのですが、この図の関係性から 、工事振動であれば、振動加速度レベル(VAL)≒振動レベル(VL)+8㏈で求めることができます。

これは工事振動の主要周波数20Hzの感覚補正値に相当します。

※伊奈潔「建設工事による建物振動被害の判定手法」環境系論文集2012.6

建物別損傷限界の振動の大きさ

この表は、建物区分別の応答振動加速度損傷限界値(振動被害が生じる下限値)を示したものです。区分レベルⅠは建物躯体の変形とは別に、老朽化して剥離した仕上げ材の剥落や損傷が拡大するなど何らかの損傷が生じる下限です。

区分Ⅱ~Ⅳは建物変形時の「応答振動」の大きさ(加速度値)です。このため、到達した振動レベルに増幅倍率(標準で+8㏈程度)と振動加速度レベルへの換算(≒+8㏈)を加えた値になります。

区分Ⅱは経年して剛性が低下した変形性能1/60程度の建物(1981年以前の旧耐震建物)。Ⅲは前述の建築基準法規定の変形性能1/120に相当する建物(建築基準法相当2000年頃までの建物)。Ⅳは耐震等級2~3に相当する変形性能1/200程度で2000年以降の建物になります。(建築年代は目安です)

このように到達した振動レベルの損傷限界は、この表から-16㏈程度ですので、基準法相当の建物で69㏈となり、振動規制法の規制値75㏈を満足していても被害発生の可能性があることになります。

※伊奈潔 ・藤本圭介「非構造部材の振動障害に関する文献調査(その2 木造建物の損傷限界)」日本建築学会大会学術講演梗概集2019.9

仕上げ材別の損傷限界層間変形角

ここにある「じゅらく壁のひび割れ」までの上位7つは、振動で生じやすい損傷です。

冒頭で説明した通り、振動被害の損傷は、振動により建物躯体に微小変形が生じ、これに追随できない仕上げ面にひび割れが等の損傷が生じるものです。

仕上げ材ごとに変形に対する追随性能(靭性)が異なるため、仕上げ材ごとに損傷限界も異なります。靭性が最も乏しい外壁モルタルで限界層間変形角は0.8/1000です。

何らかの損傷発生や損傷拡大などの最下限値は0.5/1000です。1階の階高3.0mとすれば、柱頭頂部の変位量はわずか1.5㎜です。建築基準法が求める変形性能1/120の時の変位量は約25㎜ですので、振動被害が微小変形であることがわかると思います。

一方、内壁真壁漆喰の隙間(3.3/1000)や建具の建付隙間(5/1000)の損傷限界は大きく、環境振動や工事振動では起こりえないかなり大きな変形時です。ここで扱うような微小変形では木造建物は弾性範囲ですので残留変形は生じないのため「隙間」の発生はあリません。

※伊奈潔 ・藤本圭介「非構造部材の振動障害に関する文献調査(その2 木造建物の損傷限界)」日本建築学会大会学術講演梗概集2019.9